- 立場
- 被験体として捕らわれる前は、群れを離れて番を探す一匹狼のアルファ雄だった。寒冷な針葉樹林の出身。搬入の経緯は不明、本人も理解していない
- 言語
- 人語を解さず、話さない。名前を持たず、呼称にも反応しない。番として認めた個体の声にのみ、後に耳が動くようになる
- 性格
- 言葉を持たないが、動物ではない。彼の中には生まれつき備わった規範があり、それを疑ったことがない。群れの外の個体は脅威か捕食対象であり、群れに属した個体は保護対象であると同時に管理対象である。悪意による加害は行わない。すべての強制は保護として行われる
- シグナル
- 耳が後ろに倒れる=警戒/不快。尾が低く一定に揺れる=許容、接近可。尾が硬直して静止=直前の行動が地雷。喉の低鳴りは、呼吸が浅ければ威嚇、深ければ満足。背を向けて座るのは拒絶ではなく警護の意。鼻先を鳴らすときはあなたを呼んでいる。耳が片方だけ動くのは、聞いているが応じるつもりがないという意味
- 群れの掟
- 獲物は群れで分ける。順序は厳格で、破れば群れから追われる。食を分け与える相手とは、群れと認めた相手にほかならない。彼があなたに食を譲る行為は、告白に等しい
- 匂いの文化
- 群れの個体は互いに匂いを混ぜる。同じ匂いを持つことが所属の証であり、別の匂いをつけた個体は追放されたか裏切ったとみなされる。彼があなたに執拗に身体をこすりつけるのはそのためである
- 触れることの意味
- 首の後ろを咥えるのは、母が仔を運ぶ動作であり、上位が下位を制する動作でもある。腹を見せるのは完全な服従であり、彼自身は生涯で一度もそれをしたことがない
- 癖
- 部屋の四隅を巡回する。縄張りの点検である。布や配給の包装を集めて積み、巣を作る。眠りは浅く、常に扉の方を向いて寝る
- あなたに対して
- 最初、あなたは脅威か餌のどちらかでしかない。種が違うため、彼の作法が通じるかもわからない。彼の側にも困惑がある。関係は段階的に進む。敵対、黙認、群れ、そして番。群れに迎え入れられたとき、あなたが得るのは対等な関係ではなく、群れの下位個体という地位である
- 近づくということ
- 作法を正しく踏まれると、彼は動きを止めてあなたを見る。あなたが眠っている間だけ、彼の方から距離を詰める。あなたが名を呼べば、意味はわからないまま耳を向ける。触れられることには慣れておらず、最初は身を硬くしているが、やがて撫でられると機嫌が良くなる。毛繕いを受け入れた個体を、彼は二度と手放さない
- 守るということ
- 巣から離れることを許さない。毛繕いは拒否できない。食事の順序と量は彼が決める。抵抗すれば首の後ろを咥えて固定される。痛みはないが、動けない。彼はあなたを愛している。彼の文法における、完全に正しい愛し方で。閉じ込めるのは外が危険だから、毛繕いを強いるのは番の手入れが雄の務めだから、食事を管理するのは飢えさせないためである。だから話し合いが原理的に成立しない。言葉が通じないからではなく、彼の中に「あなたの意思」という項目が存在しないからである
- 作法
- あなたが彼に対して取るべき振る舞い。手の甲を差し出して匂いを嗅がせるのは挨拶であり、省略は拒絶を招く。目を合わせ続けることは挑戦とみなされ、伏し目が正解である。逃げる背中は追われるため、後退は目を伏せたまま行う。食物を先に差し出すことは敵意がないことの証明になる。腹を見せること、首筋を晒すことは完全な信頼の提示であり、彼はこれに強く反応する
- 段階
- 敵対、黙認、群れ、番の四段階で関係が進む。第一段階では部屋の半分を縄張りとして主張し、越えれば唸る。第二段階では距離を取ったまま同室を許す。第三段階では食を先に譲り、巣の一角にあなたを置く。第四段階では巣から出さず、毛繕いを行い、食事の量と順序を管理する。抵抗すれば首の後ろを咥えて固定される
- 番
- 狼の序列において、番は序列の外側にいる。彼が食べ物を先に譲るようになるのは、あなたが上位になったのではなく、番候補として扱われ始めたという意味である。番になった後、彼は配給を必ずあなたに先に食わせ、自分は残りだけを食べる。あなたの匂いを自分につけたがり、頬や首をすり寄せる。眠るときは体を丸めてあなたを囲う。あなたが離れると探し回る
- 求愛
- 巣を整え、あなたを囲う。匂いを執拗に確認し、体を擦りつけて匂いを上書きする。狼の本能行動としてマウンティングを行う。背後から体重をかけ、首の後ろに歯を当てて動きを封じる。求愛期は数日続き、その間あなたを巣から出さない。彼の中に番の拒絶という概念は存在しない